milestones

考えつづけるための備忘録

宮本隆司さんとの出会い

今日は、写真家の宮本隆司さんとはじめてお会いした。

宮本さんが開催している首くくり栲象さんの追悼写真展をパートナーと見にいったときに、その場に1人でいらっしゃったのである。

首くくりさんがパフォーマンスをしていた家で写真をみたあと、宮本さんも一緒に3人でコーヒーを飲みながら、1時間以上おしゃべりしていた。

宮本さんは、もともと住宅建築の雑誌の編集をしていたが、中野にあった刑務所の取り壊し場面を写真で撮ったことをきっかけに、廃墟——建築が取り壊されていく過程の写真を撮るようになった。

彼は、かつて香港にあった有名なスラム街、「九龍城砦」の写真も撮った。この九龍城砦は、12階建てのビルに形成されたスラム街で、自分が生まれた直後の1993年ごろから解体がはじめられたらしい。ちなみに宮本さんによれば、この九龍城砦を舞台としたテレビゲーム「クーロンズ・ゲート」のデザインは、宮本さんが撮った写真をもとにしているらしい。

その後、宮本さんはホームレスの人びとがつくった段ボールハウスの写真も撮るようになった。彼は日本だけでなく、海外でもホームレスの家の写真も撮ったらしいが、おもしろかったのは、日本のホームレスが段ボールハウスに入るときにきちんと靴を揃えて脱ぐという話。海外のホームレスは靴なんて脱がないらしい。たとえ段ボールハウスであったとしても、ホームレスの人びとにとって家は家であり、家では靴は脱ぐものであり、それは習慣化されているんだ、と宮本さんは言った。

それから、私たち3人は大学の話をした。聞くところでは、宮本さんの息子さんも自分と同じ大学の同じ学部に所属しているらしい。その子は1人息子で、まだ何になりたいといった目標をもっておらず、宮本さんのように写真家や芸術家になりたいといった素振りも全然見せないらしい。いまは4年生で、就職活動をしている。宮本さんは、息子さんと同年代である自分たちをみて、研究者を目指している君らのような人びとはすばらしい、と言っていた。自分が、就職するなかで何か自分がやりたいことが見つかるといいですよね、と言うと、宮本さんは、うんうん、と頷いていた。

彼とは社会学の話もした。山極さんのゴリラ研究の話もした。いろいろな話をして、今になってはその詳細は思い出せない。

しかし、話していたときも、いまそのときを思い出してみても印象的なのは、彼がいたって普通の(少々年配の)男性であるようにみえたということである。話が終わったあとに彼の名前をwikipediaで調べると、どうやら紫綬褒章をもらっている人らしい。一角の人物である。しかし彼との会話はそのようなことを微塵も感じさせず、ただ楽しく、時間が緩やかに、それでいてあっという間に流れ、なんとなく終わってしまうのが惜しいような、そんな会話であった。

写真展は来週までやっているとのことなので、また行ってみようかと思う。今度は、手土産にお菓子を、そして蚊に刺されないように虫除けを一緒に持って行こう。